徳薙 零己

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末法之世 8.前九年の役

 スパイというものは、想像上の存在なわけでも、近現代だけの存在でもない。どの時代にあっても、どの社会にあっても、スパイというのは存在する。安倍頼時が利用したのはスパイであった。 奥六郡に向けて軍勢を進めているタイミングで、朝廷軍に潜り込んだ反乱軍のスパイが、平永衡が反乱軍側に寝返る可能性があるという情報を流したのである。そして、この情報を源頼義が信じてしまった。それだけではなく、平永衡が殺されてしまった。 源頼義はこれで、裏切り者はいなくなり、安心して戦えると考えた。 だが、平永衡が殺されたことは藤原経清を一つの決断をさせるに充分であった。八〇〇名の軍勢を率いて朝廷軍を脱出し、反乱軍側に加わったのである。その上、平永衡の所領に平永衡が殺害されたことを告げ、自らの所領とともに朝廷軍への補給を拒絶するよう指示したのである。 安倍頼時にとっては、考えられる最高の成果を収めたこととなる。手強い武人になると想定されたの二人のうち、平永衡は亡くなり、藤原経清は軍勢を率いて自らの軍勢に加わった。その上、平永衡と藤原経清の所領が反乱軍側に立ち、朝廷軍への補給拒絶を宣言したのである。これは朝廷軍を挟み撃ちにすると同時に、大軍であるがゆえに兵糧も大量に必要とする朝廷軍が補給できなくなることを意味したからである。