応天門燃ゆ 外伝 山崎の踊り娘(下) 河陽離宮の建設工事は九割ほど完成していて、国府の一部の業務は既にこの場で稼働していた。 軽食を終えた二人は工事中の国府の中に入っていった。 家出同然で都を発ったとは言え、本物の家出ではない以上、貴族の家の者として滞在先を明確にする必要がある。 貴族やその家族が都を発つとき、行き先が五畿のどこかであるならば許可なく出発することは許されるがどこに滞在しているかの報告が必要となり、五畿の外だと出かける前に朝廷の許可が必要となる。それは京都から目と鼻の先にある比叡山に向かうのでも例外ではなく、事前に五畿の外にある比叡山に向かうことを朝廷に申請し、朝廷から出かけることの許可を得なければ出発できなかった。 今回の二人の場合、五畿の中に含まれる...2011.04.30 15:10平安時代叢書
応天門燃ゆ 外伝 山崎の踊り娘(上) 「それがな、落ちたんだってよ」 男は喜々として言った。 「嘘でしょ! 何で道真さまが落ちるの!」 女は信じられないというより、信じたくないという思いで言った。 「落ちたのは道真さんだけじゃねえって。能有さまだって落ちたんだから」 「なんだって!」 貞観三(八六一)年の省試の結果は都中の人を驚愕させるに充分だった。 清和天皇の兄、源能有(みなもとのよしあり)、不合格。 文章博士菅原是善の子、菅原道真(すがわらのみちざね)、不合格。 この、あまりにも強すぎる後ろ盾を持った二人の少年がともに省試に落ちたのだ。 道真が大学に落ちたという知らせを聞きつけた者の反応は真っ二つに分かれる。ムカつく野郎に天罰が下ったという反応と、憧れの道真様に悲...2011.04.30 15:05平安時代叢書