天下三不如意 7.白河院政 この時代の日本人は白河法皇が圧倒的権力者として君臨していること、藤原忠実の後を継いだ関白藤原忠通は前任者よりも白河法皇の言いなりになる関白であること、議政官は白河法皇の命令を法にするための儀式の存在になっていることを自覚していた。 鴨川の東に生まれた白河の大邸宅とその奥にそびえる九重塔は白河法皇の勢力を示すものであり、法制化を求める陳情も内裏ではなく白河に向かっている。内裏で働くより白河で働くほうが役人としての成功であり、白河法皇にいかに近づくかが貴族としての成功である。2019.03.29 16:54平安時代叢書
天下三不如意 5.山法師たち とは言え、事件は事件として審理されてはいたのだ。許されざる事件であるが、この時代の法に基づいて審理されていたのであるから、この審理自体は問題ないはずである。 しかし、比叡山延暦寺はここを問題視した。 殺人という穢れをなした人物が知らぬ顔をして首都にやってきたのは大問題だという一大キャンペーンを打ち出したのである。現代の日本人には理解できない概念であるが、この時代では充分に有効な概念であった。もっとも、未だに福島県に対する差別を隠さない人間がいるから、そうしたレベルの人間だったら現代の日本人でも理解できてしまうのであろうが。 天永二(一一一一)年一一月一九日、源明国に対する判決は佐渡への配流に決まった。配流は、死刑の無いこの時代では...2019.03.29 15:45平安時代叢書
天下三不如意 4.清和源氏の崩壊と再生 治安を悪化させる要因は、検非違使と北面の武士を総動員してデモ集団にぶつけたことだけではない。この時代の犯罪に直面したときの対応の常識にもある。 その一例が、嘉承三(一一〇八)年四月二四日の夜の出来事として記録されている。場所は二条富小路とあるから高級住宅地、ただし、邸宅の主人は貴族としてはギリギリである五位。この五位の貴族の家に強盗が入り込み、五位の貴族をはじめとするこの家の人たちを殺害して財物を奪い去っていったのである。ここまでは、とんでもない出来事ではあるが、古今東西どの国でも起こる出来事でもある。 近所で起きたこの出来事に直面した者の名を、当時の記録は少内記光遠と残している。強盗が襲撃してきたというのは、被害者にとっては一生...2019.03.29 15:23平安時代叢書
天下三不如意 3.堀河帝から鳥羽帝へ 彗星というのは、現在では単なる天体現象である。 しかし、彗星のメカニズムが知られていない時代において、何の前触れもなく姿を見せる彗星というのは凶兆であった。箒星(ほうきぼし)という別名からもわかるとおり、世の中の汚れを一掃して新しい時代を迎えるときに現れるシンボルとされていたのである。新しくなるならいいではないかと考え、それのどこが凶兆なのかと考える人もいるかもしれないが、そのような人はこのように考えて欲しい。自分がまさに一掃される側の汚れと見なされたらどうなるか、と。収穫量が以前より減ってインフレが高まり、暮らしぶりが悪化していると実感してきているの加え、寺社のデモ集団が平安京にまでやってきて暴れ回っているというだけでも世の中の...2019.03.29 14:55平安時代叢書
天下三不如意 2.新勢力の勃興 康和四(一一〇二)年に興福寺の起こした武装蜂起は、年が明けた康和五(一一〇三)年、最悪な形で収束した。 一日、また一日と興福寺の武装勢力は平安京に近寄り、三月中旬には白河法皇が破壊を命じた宇治橋を超え、三月二五日には平安京になだれ込んだ。興福寺の武装勢力を止める者はおらず、武士団も自分たちの守るべき人の警護しかできず、武装集団は右大臣藤原忠実のもとへとたどり着いたのである。現在の感覚で行くと、デモ隊が首相官邸になだれ込んで首相に直接要求を突きつけているのと同じである。違いがあるとすれば、このときの興福寺の武装デモ隊は春日社の神木を奉じていたことぐらいか。 これに対する右大臣藤原忠実の態度がどのようなものであったかは不明であるが、結...2019.03.29 14:25平安時代叢書
天下三不如意 1.藤原師実亡きあと 格差が問題だと考えるのは現在も平安時代も同じである。 そして、格差社会の解決方法が存在しないのも、現在も平安時代も同じである。 厳密に言えばあるのだが、それは、格差のほうがまだマシと言える絶望、すなわち、戦争、革命、大規模自然災害のいずれか、あるいはそれらの組み合わせである。豊かな者も貧しい者も等しく貧しくなったため、「格差が無くなった」という言葉は嘘ではなくなるが、そこに登場する社会は、格差社会の解消した形として求められる誰もが豊かな社会とは真逆の、誰もが等しく貧しい社会である。 格差とは豊かさとともに生じる宿命であり、豊かさを捨てることなく格差を無くすことはできない。豊かさと等しさとを天秤にかけて豊かさを選び続ける限り、格差か...2019.03.29 14:18平安時代叢書